古田ラジオの日記「Welcome To Madchester」

フリーライター・婚活ライター・婚活アナリスト、古田ラジオのブログです。

殺す風景上の聖家族

最近ずっと古川日出男『聖家族』を読んでいましたが、とうとう読み終わりました。

聖家族

聖家族


超大盛りの分量。738ページ。しかも2段組み。
もし古川日出男のこれまでの著作(『ベルカ、吠えないのか?』や『ロックンロール7部作』)を読んだ事があって、面白いと思うんだったら絶対に読んだ方がいいと思います。
古川日出男の小説というのは大体が風呂敷の広げ方が凄いわけです。
『ベルカ〜』だったら犬の歴史だったし、『ロックンロール〜』だったらロックの歴史と広がり。
その風呂敷の広がり具合を楽しめるかどうかでこの作家の作品を楽しめるかどうかが決まると思います。
そして、『聖家族』においてその風呂敷の広げ方は頂点に達しています。
その風呂敷の中身は詳細に記載されます。が、その一部は意図的に空白になっていて、読者側の妄想の余地があります。
「聖家族」には事実があります。東北の名所旧跡、東北弁、ご当地ラーメン。
一方でページをめくるごとに語られる「妄想の東北」。狂気故の『妄想』としてそれらは「記憶」される。そして、それと対比されるのが分類され「記録」される東北。
だけど作中に語られる記録も記憶も全てが古川日出男の広げた風呂敷の中。
記録の妄想と、記憶の妄想。東北6県の場所と700年の時間。
記憶・妄想に変わる。
作中に聖家族の兄弟が好きだというビートルズがよく出てくるですが、ビートルズどころではなくて、これのBGMはNumber Girl『SAPPUKEI』以外にはあり得ません。というかこの作品はNumber Girlが繰り返し歌っていた「妄想化する(思春期の)記憶」というテーマの延長線上にあります。
「妄想化する記憶を拠り所にする兄弟」と「(記された)記録以外を信じず、現実を記録に合わせて修正する父」、「母としての祖母」と「透明な存在としての母」による、聖家族。
超巨大な風呂敷につつまれた聖家族。
Number Girl的世界観はどこまでも拡張されていきます。つまり、「冷凍都市」とは「妄想の東北」。
その中で遊んでいられる我々読者は幸せ者だと思います。
SAPPUKEI

SAPPUKEI