古田ラジオの日記「Welcome To Madchester」

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合理的なものは不愉快だ:書評「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」

日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル

日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル

栄で1時間ぐらい探し回ってゲット。一気に読んだので感想でも。
自分が橘玲の本を始めて読んだのはもう10年前で、それ以来、氏の新しい著作が出ると必ず買っているウォッチャーである。まぁ、そういう人が書いた書評という点を含みおきいただいた上で、以下の文章を読んでほしいわけだが、基本的に、本書の内容はこれまで氏の連載原稿や公式サイトで公開されてきた原稿の内容を踏襲したものとなっている。というわけで、割と既読の内容が多い。
だが、それでもいくつかのポイントについては非常に重要(というか耳が痛い)内容となっている。


まず現状認識として、
・日本の財政が本当に破たんするかどうか(アベノミクスが成功するかどうか)はわからないので、考えるだけムダ
・本当に破たんするにしても国債価格が下落して金利が上昇する→円安とインフレが進行し、国家債務の膨張が止まらなくなる→日本政府が国債のデフォルトを宣告し、IMFの管理下に入るといった具合に順番におこり、ある朝目覚めたら日本円が紙くずになっていた、などということはぜったいにない。


という点を挙げたうえで、
・たとえ日本の財政が破たんにむかっているとしても、当分は普通預金で貯金しておけばよい
・仮に破たんしたとしても手近にある金融商品だけで資産のかなりの部分を守ることができる(つまり、国内の証券会社で買える商品で十分
・たとえ海外投資をする必要があるにしてもネット銀行の外貨預金で十分


そう、あの橘玲が「海外投資なんかしなくてもいい」と言っているのだ。氏といえばそもそも海外投資法のパイオニアとしてデビューしたことは周知のとおりである。で、その氏がどういうロジックで「宗旨替え」をしたのかは、是非本書を手にとって確認してみてほしい。
あとがきにおける、
「こうして私は「海外投資はしなくてもいい」という本を書かざるを得なくなりました。」
という一文は皮肉に満ち満ちている。


さて、こうした内容は実は我々にとって非常に都合が悪い。
いや、何が都合が悪いって、我々にとって「日本は破たんしてくれないと困る」からだ。それもできるだけハデに(ちなみに、もし仮に財政破たんしてもそこまで酷い状況に陥るわけではないというのも本書の主張の一つである)。もちろんそれは、合理的に考えた末の結論なのだが、それ以上に「人間汗水たらしてはたくのが一番」とか「カードなんか使わないほうがいい」「不動産買った方がいい」とかいう呪文を唱える人間(なぜかそういう人間は偉かったりする事が多い)に対して我々の方が合理的だという証明なのだから。要するに、日本国の財政破たんという「黄金の羽根」によって多額の利益を手にすることは、経済的利益以上に、それによって「非合理的な人々」が滅んで欲しいという願望に基づいている。なぜ我々は「いつかはゆかし」のバナーとか胡散臭いなぁと思いつつ、ついつい見てしまうのだろうか。それは、「いつかはゆかし」に投資することが経済的に合理的かどうかは実はどうでもよく、それが我々が潜在的に持つ願望に寄り添い、手軽に願望をかなえてくれるからだ。我々が「日本国破たん」にベットし、それによって自分の正しさを証明し、一方でバカな人々が滅んで欲しい。こうした願望が頭をもたげるのは、それはそうでもしないと逆転できないという厳然たる事実の裏返しなのだが、この願望は超強力なのでなかなか払しょくすることは難しい。


それに対して、橘玲が突き付ける「海外投資なんてしなくてもいい」という現実は非情である。
氏が言うとおりアベノミクスが成功するかどうかなんてことは誰もわからない。日本が財政破たんするかどうかは我々の「願望」とは全く関係なく起こる。この本のamazonレビューでボコボコにされている人がいたが、自分はその人の事を笑えない。それがコインの裏表にすぎないからだ。だからこそ合理的に行動しなければならないという自戒が必要なのだ。「合理的なものは不愉快」だからこそ、その事実がどれだけ自分にとって都合が悪かろうと受け止めて判断する事ができなければ自分が滅んでほしいと願う人々と同じになってしまうのだから。